掲載:2025.12.22
NPO birth 経営スタイル
社会的使命と収益を統合する経営モデル
プロローグ:社会的使命と収益を統合する経営モデル
NPO birth の経営スタイルは、「社会的使命と収益を統合する経営モデル」です。 日本社会に根ざしながら、公益と経営を両立させる新しいNPOの経営モデル(Integrated Model of Social Mission and Revenue)。それが、私たちが28年かけてたどり着いた答えでした。
この経営モデルに至るまでの道のりを紹介することで、同じように悩み、模索しているNPOの方々の一助になれば幸いです。

誕生の背景と原点(1997年)―中間支援の思想
1990年代、首都圏郊外では、田畑や雑木林など身近な自然が大規模開発によって急速に失われていました。「このままでは地域らしい景観も生きものも消えてしまう」。その危機感から、市民団体 birth を設立しました。 活動は、田んぼや雑木林の保全、環境教育プログラムの実施など。順調に仲間も増え、週末には楽しいボランティア活動が続きました。 しかし、活動が広がるにつれて会員管理や会計などの事務作業が急増し、ボランティアだけでは支えきれなくなりました。やがて事務機能がパンクし、活動は停止状態に陥りました。
「どうすればボランティア活動を持続できるのか」。
その答えが、「ボランティアを支える事務局機能のプロ化」でした。ボランティア活動を持続させるには、活動そのものだけでなく、活動を支える仕組みが不可欠です。このボランティア活動を支え、活性化するための組織、中間支援組織をつくろうと考えました。
ここから中間支援組織「NPO birth」がスタートします。

NPOという発見と制度の限界(1998〜2000年)
どうすれば「ボランティアを支えるプロフェッショナルな組織」をつくることができるのか。 それを考えていたとき、アメリカには市民が主体的に社会課題に取り組む「NPO」というプロフェッショナルな市民組織があるということを耳にしました。
「これだ!」。
当時の日本には、アメリカのようなNPO法人制度はまだ存在していませんでした。
「ないなら自分たちで作ればいい」。
自らの意思で何かを生み出す力を持ちたいという思いを込めて、団体名を NPO birth と名づけました。

1998年、特定非営利活動促進法(NPO法)の施行
1998年、日本にもNPO法人を設立できる法制度が生まれました。行政だけでなく、市民が自らの発想で公共的な活動を行える。いわば「公益の民主化」が実現した画期的な出来事でした。 多くの市民団体が希望を胸に次々と法人格を取得していきました。
しかし、NPO birth はすぐには法人格を取得しませんでした。NPO法人格を取っても継続した事業活動はできないだろうと考えたからです。理由は、2つでした。
一つは、制度としての器は整っても、アメリカのようにNPOが自立して活動できる資金の仕組みが存在しない。
もう一つは、法が定める法人運営が驚くほど専門的で複雑であり、体力のないスタートアップ団体には対応できない。

サンフランシスコで見た「理想と現実」(2000年)
どうすれば日本社会で活躍できるNPOをつくれるのだろうか。
その答えを探すため、NPO活動の本場・サンフランシスコを視察することにしました。 現地では、多種多様なNPOがそれぞれの社会的使命のもとに活発な活動を展開していました。 当初私は、「アメリカのNPOは税制優遇や寄付による潤沢な資金で活動をしている」と思っていました。しかし、実際には多くのNPOがマネジメントに力を注ぎ、自らの努力で活動資金を生み出していました。この視察で2つの重要なことを学びました。
- 理想を現実に変えるにはマネジメントが不可欠。
- 法人格は社会的使命を遂行するための手段に過ぎず、状況に応じて柔軟にカスタマイズすればいい。
この気づきがbirthの経営思想の礎となりました。「いつか日本にも、こんなNPOをつくりたい」。 憧れと夢を抱きながら帰国しました。
※画像は2001年11月4日発行「サンフランシスコ市の環境保全と中間支援NPOの取組み」

2001年、法人格取得
2001年、環境省の事業応募に「法人格」が条件とされたため、NPO birth は法人取得を決断しました。 その際、東京都の担当者から言われた言葉が今も心に残っています。 「誰かに勧められて法人格を取るのか? 自分の意思でなければやめた方がいい。」
2001年1月、NPO birth は覚悟を決めて「特定非営利活動法人 NPO birth」となりました。 資金調達に目途がつかない船出でした。本来の事業に資金と労力を集中するため、理事会や総会の運営、会計など、組織を維持するための仕事は、徹底的に軽量化しました。
なお、名称に「NPO」を残したのは、自由と自立を基盤とするNPOであるという初心を忘れないためです。

法人格は取得したものの
法人格を取得しても、予想通り状況はまったく変わりませんでした。
取得後3年間の収入は、講師料8,000円、会費3,000円×18人×3年分、そして助成財団から得た助成金のみ。期待していた行政からの委託事業も補助金もまったくありませんでした。アルバイトを雇う資金もありませんでした。
「法人格を取れば何とかなる」「お上が助けてくれる」「良いことをしていれば誰かが支援してくれる」。淡い期待は、現実の前に吹き飛びました。
どうすればNPO birthは日本社会で活躍できるようになれるのか?アメリカ型のNPOモデルをそのまま導入しても、社会構造の異なる日本では機能しない。日本のNPO法には、行政支援や税制優遇など資金基盤がなく、NPOが継続的に活動できる仕組みが整っていない。

自立的な経営に立ちはだかる壁
ー100年続いた公益団体の慣習ー
アメリカ型でも、日本型でも存続できない。
自立を求められる一方で、「公的な組織は収益を上げてはいけない」「事業で対価を得るのは公益性に反する」「お金を扱うとNPOらしくない」「NPOは寄付や会費、助成金で事業を行うべきだ」という空気が強く漂っていました。
そんなある日、ふと気づきました。
「私たちは、100年続いた公益団体の慣習に引きずられているのではないか?」。「収益を得てはいけない」というルールは、行政の外郭団体として税金を原資に事業を行ってきた旧社団法人・財団法人だからこそ成立した制度的な制約でした。しかし、この制度的前提だけが、行政から独立して活動するはずのNPOにまで空気として引き継がれてしまったのです。その結果、「NPOは収益を上げてはいけない」等といった誤った固定観念が広く浸透してしまいました。
本来、NPOは市民が自由に新しい公益をつくり出すための制度です。価値を提供し、その対価として収入を得ることは制度上まったく問題ありません。むしろ、自立の前提です。この空気の正体に気づいた瞬間、日本社会に適応できるNPOの運営モデルの道が一気に開けました。

日本型NPO経営モデルの確立-社会的使命と収益の統合
ここから、NPO birth の「社会的使命と収益を統合する経営モデル」は歩み出すことになります。
「日本の社会環境に適応できるように、組織と事業をカスタマイズすればいい。」
旧来の慣習に縛られるのではなく、制度本来の意図「市民が新しい公益を創り出す」ことに立ち返ればいい。そうしてNPO birth が辿り着いたのが、「ミッション・ドリブン(Mission Driven)」という発想でした。「社会的使命(ミッション)を組織の中心に据え、使命を原動力として事業を生み出し、その成果(収益)を再び使命の実現に循環させる」
この「使命を中心に据えた循環」こそ、日本社会でNPOが持続的に活動を続けるための鍵であると私たちは確信しました。
「ミッション・ドリブン(Mission Driven)マネジメント」
- 中心は社会的使命(Mission):組織のスタート地点・価値判断基準
- 使命 → 事業化:ミッションが事業を押し出す “原動力”
- 事業 → 成果(収益):社会課題の解決が価値として評価され収益となる
- 収益 → 再投資:得た収益をさらに使命の実現に使う
- 使命の実現度向上 → 次のサイクルへ:組織が持続的に回り続け、社会的価値が増幅する

経営モデルの実装
ー指定管理制度との出会いが理論を社会実装させたー
2003年の地方自治法の改正により、NPOにも公共施設の管理運営を担う道が開かれました。使命を果たすために事業を行い、得た収益を次の社会的価値の創出に再投資する。ミッション・ドリブンを実践に移すチャンスが訪れました。
そして2006年、私たちは東京都の都市公園の指定管理者として活動を開始しました。 公園管理運営、環境教育、地域協働支援、企業緑地での生物多様性の保全。これらの事業は、「社会的使命の実践」であり、同時に活動資金を得られる「収益事業」でもありました。 行政の補助や善意の寄付に頼るのではなく、自らの専門性と技術によって社会課題を解決し、価値を生み出す。都市公園での業務は、ミッション・ドリブンの実践の場でした。
指定管理制度のもとで培った経験と成果によって、私たちは「社会的使命と収益を統合する経営モデル」を確立しました。 理想と現実をつなぎ、社会的価値を経営で支える。 このモデルこそが、NPO birth の経営哲学の核となったのです。

自立経営のノウハウ
ー社会的使命を経営で支えるー
NPO birth の歩みは、「理想を現実に変えるための試行錯誤」でした。日本社会の中で、自ら掲げたミッションをどうすれば持続的に実践できるのか。
市民団体として公益と自立を両立できる活動を続ける方法を探り続け、たどり着いたのが「社会的使命と収益を統合する経営モデル」 です。
「技術とノウハウで社会課題を解決し、収益を得る。得た収益を次の社会的価値に再投資する。」
この循環こそ、自立経営の原点であり、NPOの自由を支える仕組みです。

終わりに、birthが確立した自立経営のノウハウを整理します。
- 1. ミッションを事業化する
社会的課題解決を「ミッション」ではなく「サービス」として再定義し、価値として提供する。理想を語るだけでなく、課題解決を実行する仕組みをつくる。
- 2. 自立した財務構造を持つ
寄付や助成金に依存せず、事業収入で運営を支える。「自ら稼ぎ、自ら使う」ことで、NPOは真の新しい公益を生み出せる。
- 3. 専門性を価値に変える
NPOの資源は、現場で培った知識と技術。専門性を体系化し、社会課題の解決サービスとして提供する。
- 4. 協働を経営資源として捉える
行政・企業・市民をつなぎ、中立的な立場で協働を設計・運営する。「つなぐ力」こそ、NPOにしか持ち得ない経営資源。
- 5. 収益を再投資し、社会的価値を増幅する
利益は目的ではなく手段に過ぎない。得た収益を次の課題解決や人材育成に再投資することで、社会的リターンの循環を生み出す。
NPO birth はこれからも、 正しさよりも価値を、理念よりも実践を。 行動によって社会を変えるNPOであり続けます。 そして次の世代へ。 このモデルが新たなNPOの礎となり、 「人と自然が共生できる生命都市(いのちのまち)」の実現へとつながることを願っています。