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ニューヨークのコミュニティガーデン(2)

2012年5月 9日 /ニューヨーク便り

 先月はコミュニティガーデンの歴史についてのワークショップについてご報告しました。今回は午後に参加した"自主製作映画 グリーンストリート"を鑑賞した感想とそのほかの会場での出来事のご報告です。

 

 午前中に参加したコミュニティガーデンの歴史の授業を一緒に受けた女性が、「午後、私が撮影したニューヨークの市民農園のドキュメンタリー映画を上映しますので、よろしかったらご参加ください。今の授業ではコミュニティガーデンの公式な面、私の映画ではまた違った面からコミュニティガーデンの歴史に触れることができると思います。」と宣伝なさいました。


 Green Streetというこのドキュメンタリー映画はDVDにもなっているそうなのですが、せっかくなら撮影なさった監督さんや他のコミュニティガーデナーさん達と一緒に見たいなと思い、午後のワークショップはこの映画鑑賞に充てることにしました。

 Green Street を撮影なさったのはMaria DeLucaさんという女性で、映画撮影を大学で専攻し、時々得られる奨学金や自主資金を工面しながら1979年から1989年までの10年間、ニューヨーク5区の39ヶ所のコミュニティーガーデンを回ってドキュメント撮影をなさったそうです。彼女が一番思い入れのある作品とのことでした。


 ネットで彼女とこの作品について検索したのですが、情報が見つかりませんでした。言葉の説明だけでわかり難いと思うのですが、この映画を見て私が考えたことをご報告しようと思います。


 70年代~80年代のニューヨークの街並みから映画は始まりました。当時のニューヨークの街に緑が少なく、荒れた空き地が多いように見受けられました。午前中に受けたコミュニティガーデンの歴史の講義の余韻で、政治の手段としてのコミュニティガーデンについて考えながらの鑑賞でした。


 1977年に創設された団体のグリーンサムが実際どのような活動をしたのかが映像で紹介されます。この時代、アパート経営に破たんした家主がアパートの建物を放棄したり、ただ建物を取り壊すだけで敷地を放棄したりして、瓦礫に埋まった空き地がニューヨークのところどころにあったそうです。"その人の住む部屋はその人の心理状態を現す"とも言いますが、その視点から言うとこの時代のニューヨークの人々の心は荒んでいたのだと思います。毎日の仕事に追われ、お金のことを考え続け、街の美観や他の人について想いやる余裕もなく、街は汚れるに任されていたようです。


 そこからニューヨーク市の活動が始まります。市長自らコミュニティガーデンに視察に出向き、地元の青年や主婦の方達と農園について語りあいます。特別に街の美化のために予算が組まれ、コミュニティガーデンのために必要な資材が支給されました。瓦礫に埋まった都会の土は農作には適しません。そのために、raised bedという板で仕切られた高さ50cm~1mくらいの花壇が作られました。大きなトラックに満載された茶色い表土が荒れた空き地にドカッと下ろされ、地域の住民が一輪車やスコップを使って、せっせと農園を整備していきます。道行く人達はそれに関心を示し、人と人との交流の場にもなりました。


 地域の子供達の遊び場にもなり、学校が終わってから、日が暮れるまで野菜に水をやったり、実った野菜の収穫を楽しむ子供達。コミュニティガーデンに参加した人達は低所得者が多かったようですが、自分達には社会のために寄付をする余裕もないと自信をなくしていた人達も、農園で野菜を収穫し、その野菜をご近所さんに分けることで、自分達にだって人のためにできることがあるんだ!と自信を取り戻していく様が記録されています。「今は私たちにも人のために野菜を分けてあげることができるんですよ。」と笑いながら満足そうに話す黒人のおじいさんの顔が印象に残りました。


 秋の収穫の時期には品評会が開かれて、ニューヨーク5区のコミュニティガーデナーが自分達の栽培した自慢の収穫物を持ちより、それぞれ最優秀賞等のレッドリボンやブルーリボンをもらいます。表彰される子供も大人も誇らしげな顔をしていました。コミュニティガーデン活動のもつ政治的な面に心を曇らせていた私ですが、この映画を見ることで、やはりこの市民活動には人に幸せをもたらす前向きな力があるな、と再認識できました。


 映画の最中紹介された白人のおばあさんが言った一言が耳に残って今もそれについて考えています。「コミュニティガーデンは私達に多くの挑戦の機会を与えてくれました。隣人を信頼する挑戦、人種を超えて交流する挑戦です。」(Racial instructionと言っていました)
 "綺麗な市民農園を作ろう"、"地域住民の交流の場を作ろう"というのが為政者の建て前のスローガンだったと思います。その裏にあった意図は大きな市を統治するために、悪化する社会環境に対処する必要が出てきて、その対策としてコミュニティガーデン活動に予算を割り振ったのだと思います。当時NYCには放置された空き地が多くあり、その美化もできて、労働力は無料で地域住民から得られるお金の掛らない環境美化政策だったのでしょう。ですが、実際にその場で活動する地域住民にとってはそんな裏の意図などどうでもいい話しなんだろうと思います。地域の住民達は得られたチャンスを活用し、楽しみながらコミュニティガーデンを運営していきます。この記録映画を観終わって、コミュニティガーデン活動を奨励する為政者の意図も私なりに理解でき、どうして地域住民が自分達の時間を費やして農園を維持管理しているのかも理解できました。為政者と住民達のお互いの利益のバランスががちょうどよく取れてコミュニティーガーデン活動が成立して維持されてきたんだろうなと自分の中で話しをまとめました。


 映画が終わり、参加者がみんな拍手をして監督者のマリアさんと感想を語り合いました。マリアさんも参加者の大多数も60代~70代の女性が中心でしたが、"この映画はコミュニティガーデンだけの歴史を残すのではなくて、当時のニューヨークの風景の記録としてもとても価値があると思います"とか、"この映画はぜひ私達の市民農園仲間にも見せたいです"という感想が語られました。予定されていた時間を過ぎてしまい、会場の管理者に半ば追い出されるようにして教室を出たのですが、参加したみなさんはとても満足そうでした。


 ニューヨークのコミュニティガーデンについて全く未知だった私ですが、大づかみにその背景を理解することができました。その歴史に関わった当事者の方達と時間を共有できたのも嬉しかったです。これからも時間をかけてコミュニティガーデンについて考えたり、実際に保存管理されている農園を訪ねようと思います。今回得た新しい情報は次のようにまとめられます。

 

1:コミュニティガーデンはその時代時代の危機、住民達の要望に応える形で運営されてきた。
2:NYでのコミュニティガーデン活動は人種を超えた交流を促すためにもよい影響を与えた。
3:コミュニティガーデン活動は市民主導で成立したのではなく、ニューヨーク市、為政者の資金援助、施策が中心となって生まれ、今も住民達と為政者の関わり合いのバランスのもとに運営が続けられている。(公共の資金供給無しにはおそらく市民農園活動は成立もせず、維持、成長もできない。)

 

 こんなことを考えながら映画の上映された教室を出て、いろいろな市民活動が紹介されているブースを見て回ってから会場を後にしました。ベジタリアン生活について紹介するブースで資料をもらった時には、「あなたは鶏肉を食べますか?」と聞かれ、「週に1,2回は食べてます。ごめんなさい。」と答えたら、質問をしてきた男性に笑いながら「You are such a son of a bitch」(お前はとんでもない人でなしだな!)と言われました。笑いながら彼の肩を叩いてその場を離れ、(鶏肉を食べることと、初対面の人間に人でなしだということの、どちらが果たして人でなしなんだろう?)と考えを巡らせました。世界は広いなぁと思います。期限切れの野菜の種子が無料で配られていたので初めて見る野菜やハーブの種子をたくさんもらって帰りました。この種子も財団の資金によって供給されています。


 公共活動の盛んなアメリカですが、どうも公共活動"産業"と言える状態なのではないかと感じています。公共活動自体はいいことなのですが、どうもそれが"飯を食う種"になっている側面もあるのではなかろうか???と疑問を持ち始めました。産業だろうとなかろうとそれに助けられる人がいたらそれでいいのですが、何が行われているのかを理解したいと思っています。これからも探索は続きます。

 

それではまた!

村山雄一

birth-bstaff |  comments(1) |  trackbacks(0)

コメント

見つけました!

お元気そうでなによりです。
頑張っていらっしゃいますね。

月に1度は是非更新してね(笑)

yoshimi | 2012年7月29日 15:58

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